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長谷川まゆ帆 歴史学(近世フランス史) 論文博士(文学)
東京大学名誉教授 現職 : 立正大学教授 / 放送大学客員教授
こんにちは。長谷川まゆ帆です。2023年4月1日、立正大学文学部の史学科教員として着任いたしました。新しい学生たち、新しい同僚のみなさまと過ごせる時間をとても幸せに感じています。慣れないことも多いのですが、毎日が新鮮でさまざまな発見があり、わくわく楽しく過ごしています。
ここに至る以前は、1994年春から28年間、東京大学教養学部・大学院総合文化研究科のスタッフとして勤務し、フランス近世史を教えていました。
同時に研究も続けてきました。専門分野は、近世フランス史ですが、具体的には、医療や身体、読むことや書くこと、人間の生き死に……..といった日常性の中に潜む問題から、人間の「こころ」と「からだ」の変化を考えてきました。歴史学の存在意義は、今から80年近くも前に、マルク・ブロックが『歴史のための弁明』のなかで書いているように、わたしたちの生きる現在から過去へ問い、過去との対話のなかで人間や社会についての理解力、まなざしを広げていくところにあります。わたしも「今あるもの」「見えるもの」がすべてであると思って満足するのではなく、現在の自明性を疑い、時間や経験という境界を超え出ていこうとする歴史学の知的冒険に魅了されてきました。
研究の特徴としては、人類学の方法や視座を積極的に取り入れているところにあり、文献を用いながらも単なる知識や情報の集積にはとどまらない、スリリングで広がりのある知を模索しています。ここ何年かは、長年あたためてきた研究——アルザス南部の小村に起きた助産婦の任命をめぐる係争事件の謎——を本にまとめていましたが、それもやっと一段落しました。
現在は、それまでの経験を踏まえて、ロレーヌ出身の女性作家グラフィニ―夫人(1695-1758)の生涯を手がかりに、この啓蒙の時代に女がいかにして「書くこと」「創造すること」に喜びを感じ、その才能を開花させていくことができたかを探っています。グラフィニ―夫人の場合、没落貴族の出身ですが、その生い立ちから40代初めまではナンシー周辺に暮らしていました。それゆえ、この地方での経験は大きく、それがいかなるものであったのかも考えてみたいところです。
ロレーヌは大国の狭間にある小国であり、30年戦争以後、荒廃に荒廃を重ね、いよいよその公国の火も消えようとしていました。そんな中で彼女はそこでどのように生き、何を受け止めて過ごしていたのでしょう。その後のパリでの暮らしは、経済的にきわめて貧しく、決して安定したものではなかったのですが、やがて戯作や物語を書く作家となってデビューしていきます。1747年にはベストセラーとなる小説『ペルー人女性の手紙』も上梓し、運命の歯車がまた大きく回り出します。
逆境のなか、彼女はなぜあんなにも懸命に書き、感じ考えることを辞めずに生き続けることができたのか、恋人のことや、病気のこと、姪のミネット(ロレーヌの鉱物という意味の綽名、後のエルヴェシウス夫人)への限りない愛情など、彼女の手紙を読んでいると、その感情豊かな内容に驚かされます。同時に、故郷ロレーヌが決して消え去ることのない大切な空間として生涯生き続けていたこともわかります。
わたしは東大にきてからのことですが、在外研究でナンシーに滞在していたことがあり、その関係で、いつかロレーヌのこともちゃんと書いておきたいと思っています。国政との関りというと大袈裟ですが、ロレーヌでのグラフィニ夫人に光をあてると、この時代の境界領域にある興味深い側面が見えてくると予感しています。社会や時代の制約を明らかにし、可能性を探ることは、彼女を時代のなかに置くことであり、我々自身の現在をよりよいものにしていくためのヒントを考えることでもあります。社会史として、心性史/感情史として、いつか1冊の本にまとめたいと思っています。
というわけで、わたくしの場合、謎の多い、奥の深い問題と格闘しているときがいちばん幸せです。過去に問い考えることは「旅すること」であり、「書くこと」は「モノをつくること」でもあって、その過程で体験的に見えてくることがたくさんあるからです。それは子どもの頃にああだこうだと捏ねくり回してはのめりこんでいた「泥んこ遊び」にも似ています。
これまでの研究や現在の関心/活動などを広く知っていただくために、いよいよわたくしもWebpageの作成に取りかかりました。みなさまの素晴らしいサイトを参考にしながら勉強中です。(2018.10.8)
現職:立正大学教授 立正大学
文学部史学科
大学院文学研究科
研究室:品川キャンパス
放送大学客員教授 渋谷学習センター
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旧所属:東京大学
研究室:駒場14号館 503A
Cf. HP画像:Château de Mme Du Châtelet (Cirey-sur-Blaise)2019. 11.16 撮影